高架下のメモ帳

考えごとの記録など。

ファンタジー的ドラゴンの起源について(1)

ここしばらく神保町の古書店でなんとなく惹かれて買ったケルト神話の本を読んでいたんだけど、ファンタジー小説RPGに出てくるようなクリーチャーの元ネタが色々出てくるので面白くなって思いを巡らせていた。
そこから派生して、ドラゴンの元ネタの話。
 

クリーチャーの代表格、ドラゴン

ファンタジーに出てくるクリーチャーのうち、押しも押されぬ代表格といえば、ドラゴンである。古今東西、ヒーローのあるところドラゴンがあり、竜退治の物語がある。

現代のRPGでよく見られる構図だけど、古代の神話まで遡ってもこの筋書きは変わらない。ジークフリートは殺したドラゴンの血を浴びて不死の英雄になったし、スサノオヤマタノオロチを退治して草薙の剣を得た。


ここで不思議なのは、竜退治というモチーフが西洋と東洋で共通していること。そもそも、非実在の生物であるところのドラゴンが、文化的に接点のなさそうなユーラシアの東西の端で類似した概念として存在していること。

ドラゴンという概念は、どちらかからどちらかへ、大陸を渡って伝播したんだろうか。あるいは、東西で独自に自然発生的したんだろうか。このあたりに興味を持って少し調べてみた。

ドラゴンの起源について

ネットであれこれ検索してみると、東洋のドラゴン(龍)のルーツは当然というべきか中国にあるらしいことがわかったのだけど、西洋の方はいまいち判然としない。

今まで東洋の龍は蛇状、西洋のドラゴンはトカゲ状というイメージがあったけれど、どうやら西洋のドラゴンもルーツは蛇にあるらしいことがわかってきた。

これまで読んできたギリシャ神話やケルト神話などでは、確かにトカゲ型をしたドラゴンの描写を見た覚えはない。とすると、どのあたりから今われわれが目にするような有翼で火を吐く大トカゲのイメージが生じてきたのかもまた疑問になってくる。


ここまで考えたところで停滞していたんだけど、「龍の起源」というそのものズバリのタイトルの本を見つけて、一気に研究(?)が前に進んだ。

この本によれば、現状存在する文献から遡る限り、西洋のドラゴンの起源は紀元前4000年、メソポタミアのシュメール文明だと考えられ、東洋のドラゴンの起源は少なくとも前1300年より前、甲骨文字が生じる以前であろうと推定されている。

そして、この両者の関係については、著者は独立して生じたものだろうという主張を展開している。根拠として、中国の古代文明には単体で龍を着想するだけの材料が揃っていたこと、および龍に対する正邪の位置づけが東西で全く異なっていることを挙げている。

正直言って、これだけではシュメール文明からの伝播を否定するには根拠が弱いように思う。が、いずれにせよ、両文明に共通し、人々の生活を左右した大河と、形状的に類似し人類が本能的に恐怖する対象であるところの蛇が結びついて龍という概念を育んだというのが、現状推測しうる最もそれらしい仮説であることは間違いなさそうだ。

 

ファンタジー的ドラゴンの姿はどこから生まれたか?

さて、龍という概念の根っこが分かりはしたが、ここでいう龍と現在のファンタジー的ドラゴンの間にはまだ隔たりがある。

原初の龍は、言ってみれば大蛇である。レヴィアタンケツアルコアトル、ナーガ。そういったイメージの存在で、現在のドラゴンと比較するといくつも要素が足りない。具体的には翼、角、手足、火や毒のブレスが足りないし、モチーフとして蛇よりもトカゲの形を取っている点も違う。

この足りない要素のうち、翼に関してはかなり納得できる回答が文中で提示されていた。どうやら、蛇がベースとなる原初の龍のうち、西洋のものは比較的早くから翼のついた図案がみられていたらしい。一方、東洋の龍は今に至るまで翼がみられない。その理由として著者が述べているのが、西洋・東洋の間での飛行という能力に関する認識の差異。

具体例を挙げるのが手っ取り早くて、東洋の天女や仙人には翼がついておらず、羽衣や雲などで空を飛ぶ。一方で、西洋の天使や悪魔にはもれなく翼がついている。これは言われてみれば確かにそうだ。
したがって、飛行するためにはまず翼が必要であるという西洋的な信念が、ドラゴンに翼をつけたのだと考えられる。これが著者の主張だ。筋が通っているように思える。

しかし、そもそもドラゴンは飛ぶものであるという前提がないと翼をつけるには至らない。なぜ翼がついたのかという問題は解決したが、今度はドラゴンはいつから飛ぶ生物と認識されたのかという問題が生まれてくる。

 

ファンタジー的ドラゴンの起源を追う

現状抱えている残りの疑問は以下。

  • ドラゴンのモチーフがトカゲになったのはどの時点からか、なぜそうなったか
  • 角や手足がつくようになったのはどの時点からか、なぜそうなったか
  • 空を飛び始めたのはどの時点からか、なぜそうなったか
  • 火や毒のブレスを吐くイメージはどの時点から生じたか、なぜそうなったか

特に、元々蛇の化物として生み出されたドラゴンが、現在すっかりトカゲ化しているのはとても不思議なことで、ここはどうにか納得行く理由を突き止めたい。

「龍の起源」は非常に詳しく横断的な分析をしてくれているよい本だと思うけれど、龍の形態的な変容についてはあまり深く掘り下げてくれてはいなかった。知りたければ自分で資料を漁るしかなさそう。

まずはトカゲ風のドラゴンの初出を突き止める必要がありそうだ。どうやら「ベオウルフ」にドラゴンの爪に関する描写があるようなので、この時代の文学作品の確認がまずスタートかな、と思う。

趣味の調べ物にしてはなんだか本格的になってきたけど、楽しいので今後もやっていきたい。